精神障害と労働災害補償の現状について
近年、職場における精神障害が注目される中で、労災補償のデータからその実態を明らかにすることが求められています。本記事では、2024年6月28日に厚生労働省から発表になった「過労死等の労災補償状況」、その中の「精神障害に関する事案の労災補償状況」を取り上げたいと思います。
精神障害の労災補償状況 年次推移
精神障害による労災補償の請求件数、決定件数、支給決定件数は、以下の通りです。
厚生労働省 令和5年度「過労死等の労災補償状況」別添資料2 15ページより
令和5年度の労災補償の請求件数、決定件数、支給決定件数と各前年度比は、下記の通りです。令和2年度以降どの項目も増加していますが、令和5年度の請求件数の増加は特に大きいものです。
件数 | 前年度比 | |
請求 | 3,575件 | +892件 |
決定 | 2,582件 | +596件 |
支給決定件数 | 883件 | +173件 |
では、どの業種で請求件数が多いのかを見てみます。
精神障害の請求件数の多い業種
厚生労働省 令和5年度「過労死等の労災補償状況」別添資料2 17ページより抜粋
上記の厚生労働省の発表資料から見ると、医療、福祉、運送業の順に請求件数が、多い事が分かります。昨今、人手不足と言われている業種に多いように思います。やはり、人手不足により無理が掛かっているのでしょうか?また、<カッコ>内の数字は自殺(未遂を含む)の件数です。この数では、建設業が最も多くなっています。
精神障害の年齢別 労災請求件数、支給決定件数の構成比
厚生労働省 令和5年度「過労死等の労災補償状況」別添資料2 22ページ
60代を除くと19歳以下から50代の、いずれの年代も20%台と、ほぼ等しく多い事が分かります。どの年代であっても、精神障害による労災に気を付ける必要があると言えます。
精神障害の時間外労働時間別 支給決定件数
厚生労働省の発表データに、「精神障害の時間外労働時間別(1か月平均)支給決定件数」も記載されています。
厚生労働省 令和5年度「過労死等の労災補償状況」別添資料2 24ページ
厚生労働省では、時間外労働が1か月で100時間以上、または2か月から6か月で平均80時間を労災認定の基準としており、一般的にも、その基準が過労死ラインとされています。しかし、今回のデータでは、その平均80時間未満でも自殺(未遂も含む)の件数が報告されています。この点は、本人だけでなく、家族、パートナー、友人など周囲の方も気にかけてあげて欲しいです。本人は、自分ではきづけなかったり、どうしようもない状況にいる場合もあると思います。
精神障害の出来事
厚生労働省発表の中に、「精神障害の出来事別決定及び支給決定件数一覧」の表が掲載されています。その中から【精神障害の出来事】をいくつか見てみます。
令和5年度に決定件数として挙げられたもので、トップ5は下記の出来事です。
- 対人関係 上司とのトラブルがあった: 598件
- パワハラ 上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワハラを受けた: 289件
- 仕事の量・質 仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった: 265件
- セクハラ セクハラを受けた: 156件
- 事故や災害の体験 業務に関連し、悲惨な事故や災害の体験、目撃をした: 154件
最後に
今、悩んでおられる方も、そうでない方も、なんとなくだけでも知っているという事が、いつか自分や周りの人を助ける事になるかも知れません。そんな思いで今回の記事を書いてみました。もしご興味があれば、厚生労働省のサイトを見てみて下さい。